『コンビニへ。』
棒付きのアイスキャンデーが好きだ。
棒が付いているからスプーンの類はいらないし、
ポロポロと生地が落ちることもない。
ただ、氷系をよく好んで食べるので、
真夏だとポタポタと溶けたアイスがこぼれ落ちてくることだけは難点だ。
それに、これだけ年がら年中食べているのに、
[当たり]に遭遇したことがない。
愛というものはつくづく、返って来ないものだ。
去年別れた元カノも、結局他の男と浮気した挙句
その事が発覚した途端連絡が途絶えた。
恐らく今頃は、その男と宜しくやっているのだろう。
「私たち別れましょう。」
と言われたわけではないので、
もしかしたらまだ付き合っている判定なのかもしれない。
ありえない。
ありえない話だが、もしそうなら早く「お別れ」の手続きをしたいものだ。
なぜなら、
もう僕には好きな人がいるから。
同じ大学に通う佐々木さん。
半年ほど前に友人の紹介で知り合った子だ。
大学二年生で歳は一つ下。
そこまで活発ではないが、いつの間にか輪の中心にいるタイプ。
だと、勝手に思っている。
そこまで親しい訳では無いので大学で見かけたら少しだけたわいもない会話をする仲。
よっ友以上、
友達未満。
と言ったところか。
「はぁ。偶然会えたりしないかな。」
連絡を取る程の勇気は無いが、
会いはしたい。
なんとも都合のいい話だ。
そんなことを考えているうちに、コンビニに着いた。
家から一番近いコンビニ。
ここにはお気に入りの棒付きアイスがある。
毎日散歩がてらここでアイスを買うのが僕の日課だ。
いつもの動線でアイスがひしめき合う冷凍庫へと向かう。
覗き込む。
ない。
いつものお気に入りのアイスがない。
ここに引っ越してきて早一年半。
あのアイスが無くなったことなんて一度もなかったのに。
「まじか。」
他のアイスを買おうか迷ったが、
食べられないと思うと余計に食べたくなるのが人間。
僕はそのコンビニを手ぶらで出た。
別に疑う人なんかいないとは思うけど、
一応(手ぶらですよ〜。何も取ってませんよ〜。)と分かるように少し大袈裟に手を振って歩いた。
スマホでこの辺りのコンビニを調べる。
「せっかくだし、ちょっとだけ遠くに行ってみようかな。」
最近、同じ散歩コースにも飽きてきたところだった。
少しだけ遠いコンビニにピンを指して歩き出す。
今日は天気が良いので散歩日和だ。
アイスを片手に散歩できたら最高だなぁ。
そうだ。
今日は二つ買おう。
一つは帰りの道中で食べて、もう一つは今日のお風呂上がりに食べよう。
そんなことを考えていたら、少し先におどおどと不安な表情を浮かべる人が見えた。
「佐々木さん?」
思わず声をかけてしまった。
そりゃあそうだ。
好きな人かあからさまに困っているんだから。
佐々木さんは「僕」を「僕」だと認識すると、まるで迷子の子供が親を見つけた時のようにキラキラとした顔で僕の名前を呼んだ。
「こんなところで何してるんですか?」
可愛くて可愛くてしょうがないという気持ちが顔に出ないよう、表情筋に力を込めながらそう聞いた。
「あの、私この辺に一昨日引っ越して来たんです。」
「え!そうなんですか!」
「はい。だからちょっと散歩してみようかなと思って家を出たは良いんですけど、スマホを家に忘れてたみたいで……。」
「しかも思ったより遠くに来ちゃったから帰り方が分からなかったってことですか?」
佐々木さんは顔を赤くしながら「はい。」と頷く。
本当に迷子だったんですね。佐々木さん。
「じゃあ、僕が家まで送りますよ。」
「忙しくなかったですか?」
「全然。僕も散歩してたところだったんで。」
言ってから、暇な男を自ら演出してしまったことを悔やむ。
「じゃあ、お願いします……。」
まさかこんなことになるとは。
あのコンビニにお気に入りのアイスが無くて良かった!
他のアイスに妥協しなくて良かった!
ちょっと遠いコンビニを目指して良かった!!!
しかし、
佐々木さんの家は意外と近かったようで、
良いのか悪いのか、夢のような時間はあっという間に終わってしまった。
「着いて良かったです。次は気をつけてくださいね。」
「はい。ありがとうございました。」
「じゃあ、また。」
と、プロレスラーに後ろ髪を引かれる思いで、できるだけスマートに見えるようその場を立ち去ろうとした。
すると、
「あの!良かったら上がっていきませんか?」
「良いんですか?」
しまった。
返答が早すぎた。脊髄反射で答えてしまった。
「もちろんです!まだ少し散らかってますし、大層なものはないんですが。」
まさかまさかの連続だ。
きっと明日、僕はとてつもない不幸に見舞われるのだろう。
佐々木さんの部屋はいかにも引っ越ししたて。
ダンボールが少し積まれている。
しかし、全く散らかってはいない。
「前まで実家だったんで、結構向こうに置いてきちゃったんです。」
そう言いながら、佐々木さんはお茶を出してくれた。
「どうしよう。本当に何も無いのに呼んじゃった。」
「いやいや。本当にお構いなく。です。」
少しの沈黙。
「あ。アイスならあるんですけど食べます?」
「良いんですか?」
またやってしまった。
僕の脊髄が優秀すぎる。
「ちょっと待っててくださいね。」
そう言って佐々木さんが持ってきてくれたのは
僕の一番のお気に入りの棒付きアイスだった。
「え!これ僕大好きなんですよ。」
「そうなんですか?私も大好きで、それだけ買い溜めしてるくらいです。」
なんということだ。
よっ友以上
友達未満
だったのが、共通の「好き」を共有した今、
よっ友以上
友達以下まで来ているのではないだろうか。
それからは好きなアイスの話で盛り上がった。
佐々木さんとこんなにも喋ったのは初めてで、上手く喋れているのか僕には分からなかった。
できるなら、今日を機に佐々木さんと仲良くなれないかなぁ。
「あっ。」
佐々木さんが目をまん丸にしながら声を上げた。
「えっ。どうしました。」
「それ。見てください。」
佐々木さんが僕の手元を指さした。
食べかけのアイスに目をやると、
そこには
[あ]の文字が書かれていた。
棒付きのアイスキャンデーが好きだ。
棒が付いているからスプーンの類はいらないし、
ポロポロと生地が落ちることもない。
ただ、氷系をよく好んで食べるので、
真夏だとポタポタと溶けたアイスがこぼれ落ちてくることだけは難点だ。
それに、これだけ年がら年中食べているのに、
[当たり]に遭遇したことがない。
愛というものはつくづく、返って来ないものだ。
去年別れた元カノも、結局他の男と浮気した挙句
その事が発覚した途端連絡が途絶えた。
恐らく今頃は、その男と宜しくやっているのだろう。
「私たち別れましょう。」
と言われたわけではないので、
もしかしたらまだ付き合っている判定なのかもしれない。
ありえない。
ありえない話だが、もしそうなら早く「お別れ」の手続きをしたいものだ。
なぜなら、
もう僕には好きな人がいるから。
同じ大学に通う佐々木さん。
半年ほど前に友人の紹介で知り合った子だ。
大学二年生で歳は一つ下。
そこまで活発ではないが、いつの間にか輪の中心にいるタイプ。
だと、勝手に思っている。
そこまで親しい訳では無いので大学で見かけたら少しだけたわいもない会話をする仲。
よっ友以上、
友達未満。
と言ったところか。
「はぁ。偶然会えたりしないかな。」
連絡を取る程の勇気は無いが、
会いはしたい。
なんとも都合のいい話だ。
そんなことを考えているうちに、コンビニに着いた。
家から一番近いコンビニ。
ここにはお気に入りの棒付きアイスがある。
毎日散歩がてらここでアイスを買うのが僕の日課だ。
いつもの動線でアイスがひしめき合う冷凍庫へと向かう。
覗き込む。
ない。
いつものお気に入りのアイスがない。
ここに引っ越してきて早一年半。
あのアイスが無くなったことなんて一度もなかったのに。
「まじか。」
他のアイスを買おうか迷ったが、
食べられないと思うと余計に食べたくなるのが人間。
僕はそのコンビニを手ぶらで出た。
別に疑う人なんかいないとは思うけど、
一応(手ぶらですよ〜。何も取ってませんよ〜。)と分かるように少し大袈裟に手を振って歩いた。
スマホでこの辺りのコンビニを調べる。
「せっかくだし、ちょっとだけ遠くに行ってみようかな。」
最近、同じ散歩コースにも飽きてきたところだった。
少しだけ遠いコンビニにピンを指して歩き出す。
今日は天気が良いので散歩日和だ。
アイスを片手に散歩できたら最高だなぁ。
そうだ。
今日は二つ買おう。
一つは帰りの道中で食べて、もう一つは今日のお風呂上がりに食べよう。
そんなことを考えていたら、少し先におどおどと不安な表情を浮かべる人が見えた。
「佐々木さん?」
思わず声をかけてしまった。
そりゃあそうだ。
好きな人かあからさまに困っているんだから。
佐々木さんは「僕」を「僕」だと認識すると、まるで迷子の子供が親を見つけた時のようにキラキラとした顔で僕の名前を呼んだ。
「こんなところで何してるんですか?」
可愛くて可愛くてしょうがないという気持ちが顔に出ないよう、表情筋に力を込めながらそう聞いた。
「あの、私この辺に一昨日引っ越して来たんです。」
「え!そうなんですか!」
「はい。だからちょっと散歩してみようかなと思って家を出たは良いんですけど、スマホを家に忘れてたみたいで……。」
「しかも思ったより遠くに来ちゃったから帰り方が分からなかったってことですか?」
佐々木さんは顔を赤くしながら「はい。」と頷く。
本当に迷子だったんですね。佐々木さん。
「じゃあ、僕が家まで送りますよ。」
「忙しくなかったですか?」
「全然。僕も散歩してたところだったんで。」
言ってから、暇な男を自ら演出してしまったことを悔やむ。
「じゃあ、お願いします……。」
まさかこんなことになるとは。
あのコンビニにお気に入りのアイスが無くて良かった!
他のアイスに妥協しなくて良かった!
ちょっと遠いコンビニを目指して良かった!!!
しかし、
佐々木さんの家は意外と近かったようで、
良いのか悪いのか、夢のような時間はあっという間に終わってしまった。
「着いて良かったです。次は気をつけてくださいね。」
「はい。ありがとうございました。」
「じゃあ、また。」
と、プロレスラーに後ろ髪を引かれる思いで、できるだけスマートに見えるようその場を立ち去ろうとした。
すると、
「あの!良かったら上がっていきませんか?」
「良いんですか?」
しまった。
返答が早すぎた。脊髄反射で答えてしまった。
「もちろんです!まだ少し散らかってますし、大層なものはないんですが。」
まさかまさかの連続だ。
きっと明日、僕はとてつもない不幸に見舞われるのだろう。
佐々木さんの部屋はいかにも引っ越ししたて。
ダンボールが少し積まれている。
しかし、全く散らかってはいない。
「前まで実家だったんで、結構向こうに置いてきちゃったんです。」
そう言いながら、佐々木さんはお茶を出してくれた。
「どうしよう。本当に何も無いのに呼んじゃった。」
「いやいや。本当にお構いなく。です。」
少しの沈黙。
「あ。アイスならあるんですけど食べます?」
「良いんですか?」
またやってしまった。
僕の脊髄が優秀すぎる。
「ちょっと待っててくださいね。」
そう言って佐々木さんが持ってきてくれたのは
僕の一番のお気に入りの棒付きアイスだった。
「え!これ僕大好きなんですよ。」
「そうなんですか?私も大好きで、それだけ買い溜めしてるくらいです。」
なんということだ。
よっ友以上
友達未満
だったのが、共通の「好き」を共有した今、
よっ友以上
友達以下まで来ているのではないだろうか。
それからは好きなアイスの話で盛り上がった。
佐々木さんとこんなにも喋ったのは初めてで、上手く喋れているのか僕には分からなかった。
できるなら、今日を機に佐々木さんと仲良くなれないかなぁ。
「あっ。」
佐々木さんが目をまん丸にしながら声を上げた。
「えっ。どうしました。」
「それ。見てください。」
佐々木さんが僕の手元を指さした。
食べかけのアイスに目をやると、
そこには
[あ]の文字が書かれていた。